夏コミで脱水症にならないために

2012/8/9 5:50 更新
2012/8/9 17:00 加筆

 

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 今年もいよいよ夏コミが近づいてきました。

 例年、夏コミでは「水分・塩分を摂らなかったことによる脱水症状」で救護室送りになる人が出ます。ジェノサイドコミケというある意味伝説のコミケもありました。

 さて。もし、あなたが脱水症でぶっ倒れてしまったら。楽しいイベントも一気に暗転してしまいます。ここでは簡単に、脱水症状の予防と(万が一の時の)措置についてご紹介します。

 いきなりですが、結論から入ります。(できれば後述の理由も読んでね)

  1. 脱水症に限らず、夏コミに限らず、ですが
     保険証か、保険証のコピーを必ず持っていきましょう。万が一、医療機関で治療を受けるような際には身分証明にもなりますし、医療費も通常の3割負担で済みます。

     (保険証がないと、その場では全額負担の上、後日保険証を持って7割を返してもらいに行くという、しなくてもよかった労力が待っています)

  2. 予防
     基本はミネラルウォーターやお茶などを、こまめに少しずつ飲む。ただし、塩分が補給されないため塩飴や塩分の多い飲み物や食べ物も活用するとよいでしょう(飴、誤飲しないように!)。水・お茶を必要以上に、一気に飲んではいけません。

     こまめに飲んでるぶんには、トイレは近くならないはずです。しかし、先述したように一気飲みすると、高確率で尿意に襲われますのでご注意ください。

     アクエリアスポカリスエットは推奨されませんが、飲まないより全然マシです。ミネラルウォーターダメなんです! という方もおられますしね。ちなみに、こちらは一回にガブ飲みしていい量の制限はゆるめです。

     水分補給ではありませんが、体を直接冷やすのも効果的です。濡らしたタオルは無理でも、保冷剤や冷感シップ、冷えピタを体の各所に固定する/貼り付けておくと何もないよりは快適に過ごせるでしょう。

    • 爪で脱水を判定するという話
      中指爪を圧迫して、もとの色に戻るまでの時間によって脱水の指標とする、という話がありますが、エビデンスは今のところ小児のみであり、大人に対するエビデンスは未確立であるようです。
      脱水症かそれ以外の疾病かどうかの簡易な判別には、使えるかもしれないし、そうでないかもしれない、ということです。
    • 炭酸リチウムによる治療を受けている人
      絶対数としては多くもないが、少なくもないのではと推測します。
      炭酸リチウム(以下リチウム)は主に双極性障害(または躁鬱病)の気分安定剤として、バルプロ酸ナトリウムと並んで多く使われています。

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      参考: リーマス[炭酸リチウム]200mg(左)とデパケン[バルプロ酸Na]200(右)

      このリチウムは血中濃度が鍵を握るお薬です。有効治療域と中毒域がかなり接近しているため、脱水状態に陥ると相対的に血中濃度が高くなりその場合はリチウム中毒の危険が迫りますリーマスヨシトミなどの炭酸リチウムを飲んでいる方は、脱水症には細心の注意を払い、主治医と相談のうえ、万全の体制で参戦するようにしてください。

  3. 措置 (ヤバめ)
     中程度~重度脱水症状(頭痛・めまい・目のくぼみ・皮膚の乾燥・脱力感・頻脈・血圧低下・昏睡 など)を自覚、あるいは他人から教えてもらったとき、あるいはもうアカン、と少しでも思ったならばスタッフさんや近くの人の力を借りて、速やかに救護室へ向かってください。

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     参考: C82での救護室の場所

     通常、西館と東館に一箇所ずつあります(上図参照)。回によっては、臨時に一箇所増えてることもあります。なお、怪我でもそうですが、勝手に救急車呼んじゃダメです。 (東京消防庁の救急隊が、既に敷地内でスタンバイしています)

  4. 措置 (軽症)
     まだ自力対処可能、しかしふつうの水分補給作戦ではどうも回復しないっぽいなどの軽症ケース(わずかにだるい・喉の渇き・食欲減退・尿量の減少)。油断していると、中程度~重度の脱水症へ進行しかねない状態です。理想は、「ORS・経口補水液」を少しずつ飲むことです。これを飲んで、やや涼しめのところで安静にしていれば大抵回復します。

     大塚製薬より、大衆向けのORS「OS-1」が全国の薬局で発売されていますので、保険として一本持っていくと安心です。

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    参考: OS-1 500ml (実物)

     OS-1が無いことも当然あり得るというか、逆にOS-1持ってる方が珍しいこのご時世ですので、無い時は別の何かで代替するしかありません。

     ここでいよいよアクエリ・ポカリの出番。両方手に入るならポカリで。このほか、GREEN DA・KA・RA でも代用できます。同様に涼しめのところで十分安静にしていて、運がよければ回復に向かいます。ちょっとだけミネラルウォーターで薄めてもよいでしょう。

     塩だけ持参してエセORSを調合する荒技もあります。スポーツドリンク(スクロース源)をミネラルウォーターにて1:1ぐらいで薄め、ひとつまみの食塩(NaCl源)、ほんの少しのオレンジジュース(K源)を投入します。他にもWikipedia等に緊急用レシピがいくつか載っています。

  5. 「予防」の理由
    • なぜ水・お茶なのか
       糖分も含まず、体の浸透圧(約270 mOsm/L)に対して水・お茶の浸透圧はとても低いため(0~5 mOsm/L)、すぐに胃を通過した上で速やかに(というか急速に)水分が吸収されるためです。

    • 一気に水を飲んではいけない理由
       あまりに急速に水分が吸収されるため、一気に体液が薄まる方向にいきます(そのまま薄まると低Na血症・低K血症などに陥ってしまう)。それは体にとってマズいため、余分な水分は排出しようとします。(飲んだ分 から 一度に吸収できる分 を差し引いた量) が、迅速に尿となります。

       
      要は、人間が短い時間に水分を吸収できる量は限られていて、一気に飲んでも効果はそれほどないばかりか、トイレが近くなる要因の一つになります。

    • 塩分などの重要性
       Na+, K+, Cl- などの電解質は、どの体液にも含まれます。特に血液内では、ナトリウム濃度・カリウム濃度・クロール濃度はほぼ一定に保たれているのは血液検査等でご存じの通りです。

       が、汗をひどくかく、リバースする、ゲリをすることで電解質が多かれ少なかれ喪失します。すると、体内の電解質濃度がそれぞれおかしくなり、体調のバランスが崩れはじめます。ひどい時には、痙攣・昏睡・麻痺のような重篤な病状に陥ることもあります(低Na血症・低K血症)。

       ※リバースしたときは: 胃酸(HCl)を排出することになるため、均衡を保とうとして (脱水とは別に) アルカローシスの状態となることがある。


    • アクエリアスポカリスエットは予防に使えないのか?
       使えないわけではありませんが、推奨はされません。こちらの浸透圧は人体の 約270 mOsm/L に比べてやや高く(これはさほど問題ではありませんが)、砂糖からなる糖分が多い割にはナトリウム濃度・カリウム濃度・クロール濃度が低いことが問題です。(※この下に参考図表があります)

       約 5g/dL ですから、仮に2本計1Lを飲みきると50gと相当の糖分を摂取してしまう上に、糖分のために胃を通過する時間も余計にかかってしまうという話まであります。ちなみにORSだと、1.35g/dL で、同じ糖質でも砂糖ではなく「ブドウ糖」の組成となっています。
      (適切な糖質濃度・ナトリウム濃度の組み合わせであれば、小腸の輸送体により効率的に能動吸収される。また、砂糖よりブドウ糖の方がORS療法には適している)

       趣旨は外れますが、ナトリウム濃度だけの点でみると、「味噌汁の上澄み」が「生理食塩水」「血液中濃度」とだいたい同じ(それぞれ、約140 mOsm/L, 154 mOsm/L, 約140 mOsm/L)。夏コミではたぶん使われない知識のような気がしますが、頭の隅っこに置いておくとそのうち役立つかもしれません。

    • 余談
      以前、特に何の知識もないころ、かかりつけの医師二人(内科・泌尿器科)に脱水症予防のコツを聞いたところ「水分をこまめにとること」「スポドリよりも水かお茶で」で、意外な答えの一致に驚いた記憶があります。

  6. 「措置」の理由
    • 救護室
       ボランティアの常駐医師・看護士さんがいるため、最低限の専門的措置、必要であればスムーズに他の病院へ運んでもらえます(※前述の通り、東京消防庁の救急隊が敷地内にいます)気分が悪くなったり思わぬ怪我をして自力対処できないようならば、迷わず救護室へ(詳しくはカタログ参照)。

       重症の脱水だとORSでも回復してこないことがあり、医療機関で点滴による治療が必要となるのも、救護室へ行く理由のひとつです。

    • ORSとは何か
      一見、スポーツドリンクのような印象を受けますが、違います。
      成分表(濃度)を用意してみました。(Na+, K+, Cl- → [mEq/L])
      商品名Na+K+Cl-糖質 [g/dl]浸透圧 [mOsm/L]
      OS-1 (市販ORS) 50 20 50 2.5 270
      ポカリスエット 21 5 16.5 6.7 323
      アクエリアス 14.8 2.0 0 4.7 300
      アップルジュース 0.4 44 45 12 730
      ※参考資料 経口補水塩(ORS) より抜粋

       ざっくり言ってしまえば、濃いです。ナトリウム・カリウム・クロール、満遍なく濃いです。しかし、浸透圧はおよそ人間の体液とほぼ同じ270 mOsm/L で、さらに使用する糖質は単糖類のブドウ糖です。

       このように、水分・電解質補給のために組成が最適化されているため、効率的かつ安全に水分補給することかできます。(そのため、健康時にORSをジュース代わりに飲むのはどれほど意味がないし、ソフトドリンクとしては各種成分が濃いため推奨できない)

    • ポカリ・アクエリで回復するのか
       ORSより運の要素が強くなってくると考えられます。なぜならば、どの電解質をどれだけ喪失しているかが、現場では不明だから。ナトリウムがほんの少し喪失気味(低張性脱水の傾向)であればポカリ・アクエリで回復に持っていけるかもしれません。

       しかし、突然のリバースやゲリでナトリウム・カリウムが喪失してしまった状況では、アクエリ・ポカリどちらでも補給源としては濃さが微妙。ナトリウム分は塩飴で何とかなりそうですが、問題はカリウムです。

       どうするか。補給源は意外なところにあります。果実系のジュースは総じてカリウム分が多く、水で薄めて浸透圧を下げてやれば迅速にカリウムを補給することができたりします。

       なお、この、水で薄めて浸透圧を下げる技は応用が利きます。予防編で、「できれば水」と書きましたが、別に「少し水で薄めたポカリ・アクエリ」でも悪くありません。1:1ぐらいで調合すれば電解質濃度を代償にして浸透圧がいい感じに下がり、スムーズな水分補給ができる飲料ができます(ハイポトニック飲料になる)
       実は最初からハイポトニックな飲料も売られており、「SuperH2O」(200 mOsm/L) が代表的です。

    • これだけはやめたげてよぉ!
       脱水してる時、あるいはしかけてる時、普通のジュース系を飲むのは避けてください。上記のアップルジュース以外にも、清涼飲料水のカテゴリーは浸透圧が高いものが多いです。例えばコカコーラでも、600~700 mOsm/L と、やはり浸透圧は高めです。

       これを薄めずにガブ飲みすると、対する体内の浸透圧が低いせいで水分が十分に補給されないどころか、場合によっては「体内→腸管」へ水分が逆走、すなわち体内の水分が持っていかれてしまい、それが原因で下痢を起こす(浸透圧性下痢)かもしれないことが知られています。

        こうなると最悪で、水分と電解質を余計に喪失してしまい、脱水症をさらに悪化させかねません。

       コミケではあらゆる場所で様々な飲料が手に入りますので、コンディションと向き合った上で適切な飲み物を選んでください。

    • 体験談
       C80に売り子で参加した私ですが、どうも軽度の脱水にやられていました。(今思うと) 会場の暑さも要因の一つでしたが、あろうことか、ぽんぺを起こしてしまったのが最悪です。

       このとき、これまでの発汗も加えて更に多くの電解質の多くを喪失したはずで、本来ならORS療法か、点滴措置が必要でした。強烈な頭痛が続き、手持ちのロキソニンで抑えていましたが、ついに弾数が尽き、帰りの品川駅NEWDAYS薬局で買い増した思い出があります。

       これは鎮痛剤なので、所詮ごまかしであったことに注意しましょう。それにしても、これに加えてリバースまでしていたら、現地で力尽きてぱたりと倒れてたかも、そんな気がしないでもありません。

    • 現役コスプレイヤー・小鳥遊さんから学ぶ夏コミの暑さ対策

    • コミケット準備会公式からのお達し [必読!]
      http://www.comiket.co.jp/info-a/C82/C82HeatIllness.html
    • カタログ諸注意ページ [必読!]
      http://www.comiket.co.jp/info-a/
      救護室・自己管理関連 - PDF p17

 わたくし長門みらいは、10日から3日間フルで一般参加……するかと思いきや、愛知の自宅でまったりゆったりしてます。C81でなかなか懲りましたからね。^_^;

 みなさまの夏コミライフがよりよいものに、すばらしい思い出になりますよう、心よりお祈りしております。