本当に怖いのは「躁」かもしれないという話
「躁うつ病」の病名は、みなさん一度は目にしたことがあるかと思います。"うつ"は分かるけど、"躁"って何じゃらほい? って方のためにざっくり説明しますと、
- 病的なハイ状態
です。簡単ですね。とは言いつつ、病的のレベルも数段階あって、精神医学界では2つに分類されてます。
- 軽躁
- 躁
では、軽躁や躁になると何が起きてきて、何が困るのでしょうか。一般的なお話と、経験者(わたくし)のお話を交えて解説いたしましょう。
まず、一般の診断基準。DSM-IVでは躁病エピソードは次のように定義されています。
- 自尊心の肥大、または誇大
- 睡眠欲求の減少
- 普段より多弁であるか、喋りつづけようとする心迫
- 観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
- 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でない関係のない外的刺激に転導される)
- 目標志向性の活動の増加、または精神運動性の焦燥
- まずい結果になる可能性の高い快楽的活動に熱中すること(例えば、制御のきかない買い漁り、性的無分別、馬鹿げた商売への投資などに専念すること)
お医者さんによりますが、概ね3つ以上で"躁"の診断となるようです。
にしても、「別に怖くなくない? やばくなくない?」と思ったあなた、甘い!
例えば、1 で自尊心がUPUPしているところに 3 の多弁が来ますから、人間関係のトラブルが多発するようになります。そして、自分自身は、「なんかイライラする気持ち」が次々とわき出てきて、それを止められません。これが危険その1ね。
わたくしの場合、6 も顕著でした。わたくしのTwitterアカウント(@MiraiNagato)に紐付いているTwilog統計をご覧ください。11月上旬にPOSTを乱発していることが見てとれます。このときの記録を見てみますと、とにかく取り留めのない、まるで脊髄反射でツイートしている様がわかります。しかも、誤字脱字も多めです(注意散漫→5)。
また、12月には一晩削って(睡眠欲求の減少→2)数学や物理の「一つの問い」を解き続けたことがありました(6)。
これらを形容するとしたら、「ハイパー活動的」と言ってしまってもいいでしょう。しかし、人間のバイタリティは有限です。実際、一晩中問題を解いていた時は、精神力も体力も限界でした(たちの悪いことに、限界なのにブレーキがかかりません!)。バイタリティを使い果たすと、待っているのは躁の反動、うつです。多くの場合、うつと躁はセットであり、まるでバネの単振動のように気分の波を描きます(双極性障害)。うつ→躁→うつ→躁……と繰り返すのも、それだけでまたバイタリティを消耗します。生活も趣味も仕事もまともに成り立ちません。これが、危険その2。
大多数の方は、ここに来るまでに「さすがに異常だ」と気づき、心療内科・精神科やカウンセリングルームを訪れるなどで、徐々に波は収まっていきます。ですが、わずかなパーセンテージで起こりうる、最悪の事態は知っておかねばなりません。
うつ状態で、「ああ、死にたいな」と思ったとします(希死念慮)。しかし、うつの時は行動力がそもそも起きないため、おおよそ自殺には至りません。その後、軽躁や躁になったとき、「ああ、死にたいな」が「よし、死のう」になります。躁には行動力があるため、自らを傷つける危険性が大いに増します。これが危険その3・最大の危険です。
かれこれ9年ほど前でしょうか、うつ病を患っていた故・祖母が自殺未遂をしたことがありました。幸い、すぐに発見されて手術の末、何とか助かりました。その時の祖母いわく、「ピキーンと来た」のだと言います。また、手術が終わって助かった祖母は、一時的に元気になっていました。今になって思えば、祖母はうつ状態から躁転したものと考えることができます。遺書が便せんなどではなく、チラシの裏を使っていたのも、ある種の衝動性を感じられます。
それでは、〆ていきましょう。躁の危険は主に3つ。
- とにかくハイで多弁、場合によってはイライラもプラス。
→人間関係のトラブルへ発展する危険。 - とにかく取り留めのない行動、躁とうつが交代交代に来襲。
→生活に支障、日常が崩壊する危険。 - 希死念慮が発生した後で躁転すると……
→自身を実際に傷つける危険。亡くなることもある。
もしあなたが「もしかして躁かな?」「どうもハイとローの大きな波があるな?」と気付いたら、力を使い果たす前に、病院やカウンセリングルームを受診して適切な指導やお薬の服用をしてください。メンタルの疾患も、身体疾患と同じく、早期発見・早期治療が大切です。
どうしても病院等に行けない状態ならば、おまじない程度の心がけ「まだやれそうだと思っても、やめておく。50%ぐらいでやめておく。」を実践してみてください。パワーセーブというやつで、躁→うつ→躁になるときに気分の変動幅を少なくできるかもしれません。
以上、「本当に怖いのは躁かもしれないという話」でした。